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【瞳に映る星のまたたき】
アウレ島から帰る船の中、寝息を立てているソフィアの横から起き上がったギルバートは、そっと寝台から抜け出した。
カーテンを開けて外を見ると、そこに広がっているのは夜の海だ。僅かな月の明かりが水面を照らしており、暗闇の恐ろしさこそないものの、どこか人を拒むような感じがする。
ギルバートは一人窓辺に立って、右手首の腕輪にそっと触れた。
その手の平の上に、きらきらと輝く光の球が現れる。
周囲で星のような小さな光が瞬きを繰り返すそれは、いつかソフィアに見せてやりたいと思って研究している魔法の一部だ。
この魔道具の腕輪は、ギルバートの魔力を循環させ、それでも溢れ出た魔力を吸収している。定期的に溜まった魔力を放出しなければより早く壊れてしまうため、常に身に付けていなければならない旅行中は、夜中に起きてわざと魔法を使っていた。
面倒ではあるが、魔道具のお陰でこうして普通に生活できていると考えれば仕方のないことだ。
「ソフィアには不自由させたくなかったのだが」
壊れてしまった藍晶石の指輪は、ギルバートの耳飾りと共にしまってある。
いつも身に付けている装飾品がなくなると、やはり何か物足りないような気がしてしまう。
しかしこの喪失感は、ギルバート自身が生み出してしまったものなのだ。
「みゃう」
「……起こしたか」
寝台の足元で丸くなって眠っていたはずの子猫が、不思議そうにギルバートを見上げていた。その透明な深緑色の瞳に、ギルバートは思わず小さく笑い声を上げる。
愛らしい子猫がギルバートに向ける瞳の色は、ソフィアのそれと同じだ。瞳の中で瞬く明かりは、ギルバートの手の平の上にある光の球のもの。
ソフィアはこれをどんな顔で見るのだろう。
きっと初めてギルバートの魔法を見て顔を輝かせたあの頃と変わらない綺麗な瞳で、花も綻ぶような笑顔を見せてくれるに違いない。
「みゃー」
「静かに。もう少し眠ろう」
ギルバートは腕輪の様子を確認して、光の球を消した。
魔道具は邸に戻るまで作れない。
指輪を作り直すまでは、ソフィアの一番側で、自分が支えてやらなければ。もう、悲しい思いはさせたくない。
ギルバートは静かに寝台に戻り、眠っているソフィアの額に小さく口付けを落とした。
やがてギルバートが眠りにつく頃には、子猫も先程と同じ場所で丸くなっていた。